映画『野火』同様、近くの映画館でリバイバル上映されていたので観ました。
以前DVDを借りたものの結局観ることなく、さらにその後アマゾンプライムでもレンタルしたのに、結局観ずじまい。
自宅だとあまり観るモチベーションが湧かない・・・
本作は多くの絶賛レビューがあるので、今さらここで新しく付け加えることはありません。
ただ、「すごく良かった!」「めちゃくちゃ感動した!」という感じではないんですよ。
まして「やっぱり戦争は良くない!」と、世界平和を叫びたくなるわけでもない。
主人公「すず」の周りの人間関係を通じ、あの戦争の時代を生き抜いた市井の人々の日常が、淡々と描かれています。
そこに「左」や「右」のイデオロギーは介在していません。
だからこそ、もう75年ほど前の出来事なのに、現代のネット時代に生きる私たちとの「地続き感」を感じるわけです。
学校で教えられる「自虐史観」に染まっていると、昭和20年より以前はまるで「暗黒時代」かのようなイメージを抱きがちですが、決してそんなことはない。
むしろ今よりも人々が精神的につながり合って生きていることがわかります(本作を描くにあたり徹底的に時代考証したとのこと)。
数日前に観た『野火』は戦地での残酷さをこれでもかと描いている一方、本作は物資がだんだん乏しくなり、自由が制限されてゆく中でも、人々がそれでも生活を工夫しながら前向きに生きようとする「普通の日常」が描かれています。
もちろん戦争映画なので胸が痛むシーンはあるものの、それでもどこか全体的に明るいトーンが漂っているのは、主人公すずをはじめとする人々の明るさもあるし、戦禍において「死」が日常の中に織り込まれていたからなのかもしれません。
第二次世界大戦の歴史を学んでいると、やれ東條英機がどうだ、近衛文麿がどうだ、ソ連のスパイである尾崎秀実やゾルゲがどうだ、ルーズベルトやハルノートがどうのこうの、など政治上の有名人にばかり注目してしまうんですが、本当の歴史を影から支えているのは、本作のような名もなき人々なのでしょう。
そんな「この世界の片隅に」いる普通の人々の、普通の息づかいを感じられたのが、本作の最も良いところです。
玉音放送のあのシーンは、大変な中を耐えて堪え続けてきたものが、ついに爆発する。
そして映画には描かれていないけど、あの時点を境に、それまでの価値観が丸っきり変わってしまう。
もし本作がもう少し続いていたら、人々はどんなセリフを話していたのか想像してしまう。
インパクトは薄いけれど、ジワジワと胸の中で広がっていくような映画でした。
原作のコミックも購入したので、さらに「この世界」を味わいたいと思いました。