『偶然と想像』は、何気ない日常は偶然による想像によって創造されることを静かに突きつける会話劇。

※ネタバレなし

3つの短編映画で構成された『偶然と想像』は、『ドライブ・マイ・カー』でカンヌ国際映画祭で4冠を獲得した濱口竜介監督の最新作。

何気ない日常は、実は「偶然と想像」によって密かに創造されている。

それを目の前にアリアリと見せつけられて、思わずドキッとしてしまう。

冒頭、ワンカットでひたすらセリフの言い回しが続く。これを「会話劇」と言うそうですが、それに慣れていなかったため「うーん、けっこうダルい映画かな?」と感じてしまった(よくある映画と一緒にしてはいけない)。

ただ、そこから先は短編ならではのテンポ感もあり、あっという間に2時間が過ぎました。

個人的には2作目が好み。最初からセリフが棒読みなので「わざとやっているのかな?だとしたらなぜ?」と疑問だったが、なぜか不思議とリアリティ(とエロさ)を感じた。

おそらく意図的であろう静かな演出の中、登場人物のかすかな感情の動きが逆に大きく伝わってくる・・・「映画的芸術」というのはこういうものなのかも。

3編とも「偶然」によって「想像」が生まれ、新たなドラマが「創造」されていく。特に3編目は明らかに「セラピー(癒し)」が偶然から創造されていました(心理学系ワークショップの題材に十分なり得るクオリティ)。

その「偶然」とは映画だから許容される「あり得ない設定」ではなく、現実の世界でも十分に起こり得る可能性を持っている。だからこそ「所詮はスクリーンの世界」と切り捨てられないリアリティさを持ちます。

面白い作品でしたけど、普通の「面白さ」ではない。非常に文学的なので、そのまま短編小説にしてほしいな。絶対買う。

冒頭の映像で濱口監督みずから出てきて、「ぜひ肩の力を抜いて観てください」的なコメントを出しておられたが、個人的には監督の才能をところどころに感じてしまうので、良い意味でリラックスできなかった・・・1回目は「会話劇」に慣れるのに集中力を使ったので、いつか配信で2回目を「肩の力を抜いて」観てみたい。

かなり話題が広がっているようで、普段は再上映しない映画館でも『ドライブ・マイ・カー』を再上演する映画館が増えています。『偶然と想像』も早く打ち切られることはなさそうですね。