『流浪の月』は社会で生きづらい人々の哀しみと、それでも居場所を求めて”流浪する”ありさまを美しく繊細に描く。

(ネタバレなし)

重たいテーマを扱っていながら、映画全体のトーンが繊細で美しい。

上映中に時計を見るとき、たいてい「つまらん映画だな、早く終わらないかな」と考えている。

この映画も途中で時計を見たんですが、このときは「あぁ、あと30分ぐらいで終わるのか・・・もっとこの空間にいたいな」と思っていました。

この映画のテーマは「人は、物事を自分が見たいようにしか見ない」ということ。

それが個人でなく社会となれば、「集団や社会はステレオタイプな物の見方が正しいと思い、それを個人に押し付ける」わけです。

日本人は「和」を重んじるけれど、逆に言えば「同調圧力」に飲み込まれやすい。

そんな「空気」の中で、そこにうまく適応できず、どうしても枠の外にはみ出さざるを得ない人がいる。

そういう人に対し、私たちは「共感のまなざし」を持つことができるでしょうか。

残念ながら、おそらく「社会というもの」は枠の外に出てしまった人たちに対して「反社会的」「非社会的」「アウトロー」「ならず者」というレッテルを貼るんでしょうね。

自分もちょっと道が違ったらそうなる可能性を孕んでいるはずですが、「自分は正しい」「自分はまっとうな人間として生きている」と思い込みたがるんでしょうね。

そこには「社会に適応した人間として生きよ」という同調圧力が働いていて、いつ自分も枠の外にはみ出すかわからない怖れが密かにあるんじゃないでしょうか。

だから、芸能人が不倫をしたり政財界人が不祥事を起こしたりすると、過度にバッシングしては「自分は間違っていない」ということを確認しようとするのかなと勘ぐってしまいます。

ますます息苦しい世の中になっている。

本作品ではそんな「息苦しさ」が全体を支配しつつも、映像(特に月や水)が繊細に描かれていました。

これは主人公である文(松坂桃李)と更紗(広瀬すず)の「許されない関係」「生きづらさを抱える二人の絆」のメタファーなのかなと感じましたね。

それにしても、松坂桃李さんの演技は素晴らしい。役作りのためにガリガリに痩せたそうですが、見事にガラス細工のような繊細さを抱えた文を演じていました。

あと、実は広瀬すずさんの演技をまともに見たのは初めてだったのですが、こんな情感豊かな演技をされる方なんですね。めっちゃ良かったです。

更紗の子供時代を演じた子役の白鳥玉季さんも良い。広瀬すずさんのガチの子供時代かも、と思えるような可愛らしい演技でした。

役者がみんな良い(バイト先の店長さん役も出番少ないけど「救い」を感じるあるセリフにグッときた)。

横浜流星さんも実は初めて見ました。攻撃性のある役どころでしたけど、その暴力性の中にある弱さや哀しさを見事に表現できていたように思います。

「DV」もまたこの映画のテーマの一つです。これも難しい。

誰もが弱さを抱えて生きているんですよね・・・完璧な人間はいないし、品行方正に見える人だって心の底ではいろんな渇望を抱えているものだし。

もっと自分や他人の弱さを知り、哀しみのわかる人間になりたいもんだ・・・と思った味わい深い作品でした。

小説も読んでみようかな。

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