『ヴォイジャー』は凡庸な展開のSF作品ではあるものの、人間の欲望や悪徳、現代社会の問題を象徴的に描く。

ジャンル的には「SFサスペンス」か「SFスリラー」といったところ。凡庸な展開で全体的な評価はやや低評価ですが、個人的にはまあまあ楽しめました。

というのも、本作の設定がまさに「現代そのもの」だからです。

予告編にも出てるから言ってもいいだろうけど、人間の欲望の抑制のために毎日飲む青い液体、あれは今でいう”アレ”かなと思います。それを「栄養ドリンク」と言われて飲んでいる。

あと、いかに人間が声の大きいヤツのデマに惑わされ、恐怖に支配され、そこに分断が生まれるかということも、まさに現代そのものですね。その描き方はやや単純すぎるけれど、たぶんわかりやすく示しているのでしょう。

「いまのミッションは人類の未来のため?ふざけんな、どうせ死ぬなら自由に暮らしたい」と思う人が出てきてもおかしくない。ただ、「好き勝手に生きたい」と叫んだところで、狭い宇宙船の中、生きるも死ぬも他のメンバーと一蓮托生。

「好きなものを食ってやろうぜ、今夜はパーティーナイトだ、ヒャッハー!」とハイテンションでも、酒もタバコもなく、あるのはおいしくなさそうな宇宙食だけなのが辛い。そんな食料も、もし早く消費してしまえば全滅のリスクにさらされる。

それを考えれば、自由を主張するより規律を重んじて協力し合った方が合理的だろうけど、だって人間だもの、非合理な選択をするヤツ、自分が支配権を握りたいヤツもいる。だからこそ「欲望の抑制」が必要なんでしょうね。

管理者側はもっと人間の非合理性を計算に入れて制度設計すべきでした。学校のクラスじゃあるまいし、理性ある大人が一人しかいないのもどうかと思う。またデータへのアクセス権限がちょっと緩すぎやしませんかね。

設定自体は面白いしテンポ感も良かったので飽きはしなかったけど、ラストの展開が個人的にうーん・・・という感じ。それまで人間は一貫性のない非合理的な存在だと描いたのなら、もう少しひねりがあっても良かったんじゃないかなと思います。

ちなみに、ヒロイン役のセラ(リリー=ローズ・デップ)は、あのジョニー・デップの娘だとさ。

『ヴォイジャー』公式ページ