『生きる LIVING』は黒澤明の原作を尊重しつつ「人生の目的」という永遠のテーマに静かに答える。

黒澤明版『生きる』はすごく好きな映画ですが、こちらのリメイク版も良かった・・・心にじわじわと沁みるような内容でした。

舞台が1950年代のイギリスに変更されているので、原作のお固い日本のお役所の雰囲気はどう再現できるのだろうと疑問だったけど、「官僚組織」はどこも似たりよったりなのかもしれません。

それにしても、この映画に出てくる紳士も淑女もみんなオシャレ。この点は原作よりこちらの方が好きですね。

根本にあるテーマは変わっておらず、変な「魔改造」もないのが良かった。

原作より約40分短い100分少しの内容なのに、無理に削り取った感じもない。

削ったぶん原作の重厚感、主人公の掘り下げがなくなってしまったという意見もありましたが、これはこれでいいのではないでしょうか。

というのも、主演のビル・ナイが表情や佇まいで語るような渋く深い演技をするので、それで観客は十分に想像できると思うわけです。

※これを書いた後、今回の脚本の「カズオ・イシグロさんのインタビュー記事」を発見。

この中で自分が感じたことをおっしゃっていて、やっぱりそうか!と納得。

『イシグロは「この映画は彼頼りで、全ては彼を中心として組み立てられました。わたしにとって、ビルは抑制した演技の達人なのです」と切り出す。「それはものすごく技術を必要とする演技でありながら、観客にそれと気付かせません。彼はほとんど何もしないのにもかかわらず、全ての感情を伝えられるのです」』

【「わたしには、それは卓越した演技だと思えます」とビルをたたえたイシグロ。「観客に“演技を見ている”ということを気付かせずに感情的に反応させ、“すごい演技だ”とありがたがらせることもない。ほとんどバイパスのようなもので、俳優が直接、観客の心に触れることができるのです。それが、わたしがこのスタイルでとても好きな点です。そして、ビルは本当にそれが上手いのです」】

「生きる」とは?

人は何のために生きるのか?

個人的には、この映画は特に中年期以降の人間が観るべきものかと思います。

「残された時間」が限られている人間が、その貴重な時間を何に使うか?

人生の永遠のテーマに迷ったとき、原作も含めた映画が「ともしび」になるのではないでしょうか。

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