大人が子供にちゃんと寄り添えているのか、ほのぼのとした映像から考えさせられる良作。
あの禍々しい『ジョーカー』とは真逆の役柄を演じたホアキン・フェニックスの幅の広さに感心。
『ジョーカー』では役作りのためガリガリに痩せていたけど、こちらではでっぷりした中年腹を披露してくれています。
本作はラジオジャーナリストのジョニーが、妹夫婦のある事情をきっかけに数日間 甥っ子のジェシーを預かるというもの。
可愛らしくて好奇心旺盛、でもちょっとクセのあるジェシーにジョニーは振り回されながらも、「支配の対象」ではなく「一人の人間」として向き合っていく姿は、特に子育て中のお父さんお母さん、また教育に携わる人たちに考えさせられる内容となっています。
前回のブログでご紹介した『ベルファスト』と同様、本作もモノクロで描かれています。
個人的にはカラーの方が好きなんですが、どうして本作も白黒なのでしょうか。
それは本作のどこかで語られていたような気がしますが、子供の頃の記憶の大半は成長するにつれて消えていってしまいます。
残るのはぼんやりとしたイメージだったり、そのときに食べたものの一部だったり、あるとき耳にしたワンフレーズだったりする。
そうして残ったものが子供の人格を形成していくわけですが、それらは「カラー」では思い出せず、やはり淡いモノクロームなのでしょうね。
特に本作はラジオジャーナリストであるジョニーの、いろんな子供へのインタビューの現場(「将来に期待しているものは?」「この世界は今後どうなると思う?」「今の大人たちに何か言いたいことは?」など)が流れているのが秀逸です。
(台本じゃなくリアルのインタビューじゃないかと疑うぐらい言葉が自然であり、また子供たちが大人顔負けの哲学的な内容を話しているのに感心しました)
映画がモノクロである分、こうした「言葉」が逆に残るように設計したのかもしれません。
その意味で本作は「子育ての難しさ」を語っているとともに、私たち大人は本当に「子供の心に寄り添えているか」を、子供のインタビュー集からも考えさせられます(エンドロールでもインタビュー音声が流れる)。
もしジョニーが子供を一人の人格として尊重しながらインタビューを行う仕事をしていなかったら、甥っ子と誠実に向き合えなかったでしょうね。
職業柄 子供に接することに慣れているはずのジョニーですら、甥っ子に手を焼いて困ってしまい、ときに力でコントロールしたくなる。
子供には仕事でインタビューしているのに、いざ自分が甥っ子から「なんで結婚しないの?」「なんで彼女と別れたの?」とストレートに聞かれると返答に困ってしまう。
こういうときに「まぁ大人にもいろいろあるんだよ・・・」と言葉をごまかすと、子供から見透かされてしまうんですよね・・・
ジョニーが立派なのは、そのたび妹(甥っ子ジェシーの母親)に電話で相談したり、後で自分の過ちを甥っ子に素直に謝ったりする点ですね。
仕事を抱えながら甥っ子の面倒も見るのは大変だけど、なんとか誠実に向き合おうと務める姿に、大人世代は考えさせられるでしょう。
モノクロだし何のドンパチもない地味な作品ながら、じわじわーっと癒やされていく温かい作品です。
刺激的なだけで後に何も残らない『ジョーカー』はあまりおすすめできませんが、本作はその逆、つまりおすすめ。