『血と骨』(2004):超暴力親父による胸糞な内容だが、魂に忠実に生き切った点だけは素晴らしい。

・最初から最後まで、気の毒すぎて溜め息しか出なかった。けれども、ビートたけしをはじめとする役者の演技がみんな濃いので、グッと惹きつけられる。二度と見る必要はないのは、一度見ただけで印象に深く刻まれてしまうから。

・自分は元々、原作者の梁石日と同じ在日韓国人(現在は日本国籍)。ビートたけし演じる親父(金俊平)は済州島から戦前の日本にやってきた。

私の祖父も済州島の出身で戦前に日本に出稼ぎに来て、姓も「金」である(笑)境遇はほぼ同じなので、個人的に引き込まれないわけがない。

途中出てきた大阪の生野には祖父・祖母・そして母が住んでいた時期がある。また息子の「正雄」と同じ名前のおじさんが親戚にいる(笑)

「北朝鮮帰還事業」のシーンも出てくるが、これまた自分の親戚が何人か北朝鮮に渡航している(その後は音信不通)。

・怪物(映画では「バケモノ」と言われていた)のような親父を持ってしまったがための悲劇。「血と骨」とは家族のことだろう。その「バケモノの血と骨」が自分たちの中にも入っている。途中、正雄が妹から「あんたも親父に似てきたな」と言われるシーンは、まさにそれ。

・ヤクザ顔負けの暴力、支配、搾取、絶倫、まさにエゴイズムの塊・・・どうしようも親父だが、始終その表情には孤独の悲しみが湛えられている。脳の病気で要介護になってしまった愛人を、一時的ではあるが彼の普段の行動からは考えられないほど大切に世話する姿は、彼が愛情に飢えていたことの証だろう。完全に抵抗できない相手にしか心を開けなかったのだ。原作の小説には書かれてあるかもしれないが、どんな育ち方をすればこんなバケモノになるのだろうか・・・

・ある意味で、親父は自分の魂に忠実に生きたといえる。それが周囲にどれだけ迷惑をかけようとも、彼はああいう風に好き勝手にしか生きることができない。本当にどうしようもないが、これも人間の業なのだろう。

そして、善悪を超え、こういう規格外の人間が時代を創ることもまた、歴史的な事実なのだ。

全体に流れる音楽が、悲しくも美しい・・・