これはかなり良かった。ひねりのない「わかりやすい物語」なんだけど、なぜこんなにじわーっと感動するのだろうか・・・
「CODA」とは「Children of Deaf Adults」の頭文字で、「⽿の聴こえない両親に育てられた⼦ども」という意味だそうです。本作はCodaである17歳の女の子が主人公の、家族物語、恋愛物語、青春物語。
※このブログの後に第94回アカデミー賞「作品賞」、お父さん役のトロイ・コッツァーが助演男優賞を受賞したことが発表されました!
主人公ルビーの両親と兄貴は3人とも聴覚障害者(なんとこの3人ともリアルの聴覚障害者が演じている!)。そんな設定アリなのか?と最初思ったけども、世界は広い。実際にそういう境遇の方はおられるようです。
素晴らしいのは『●は地球を救う』のような「感動ポルノ」になっていないこと。漁師である両親はガサツで性に奔放(手話の性的表現はマジで笑える)。兄貴は出会い系サイトにハマっていて、直情的で喧嘩っ早い。
それぞれ心根はやさしいんだけど、一方エゴもけっこう強い。そんな感じで、障害を持っている人を決して神聖化せず「クセのある人間」としてリアルに描く。それがとてもいい。
健常者と聴覚障害の家族との「通訳係」として、「大人の役割」を背負ってきたルビー。ただ特殊な家庭環境ゆえ、クラスメートとうまく打ち解けない。そんな彼女が自己表現できる手段は「歌うこと」でした。
その歌唱の才能をヴェルナンド先生(V先生)に見出され、特別にレッスンを受けることに。松岡修造みたくパッションあふれる指導っぷりが素晴らしい。その熱にルビーの閉じた心が少しずつ開いていく。
本作は「メンター(師)との出会い」によって成長していく物語でもあります。
家業である漁師(そして家族の通訳)を選ぶか、音楽の道を選ぶか・・・
ありがちな設定であり、映画の教科書にでも載りそうな鉄板構成ながら、描かれ方が洗練されている。ストレートな球を思いっきりブチ込んでくる爽快さよ。
父と母は「お前が通訳してくれないと困るよ」と言いつつも、内心は娘の道を応援したい(ここでの兄貴のセリフは特に素晴らしかった)。もちろん聴覚障害ゆえ娘の歌は聴こえないのだが、ある方法によって歌を「感じる」シーンがあります。
そこで聴覚障害者の視点(聴点?)を擬似的に体験でき、またそれが「絶妙な間」にもなっている。物語は平凡であっても、Codaと聴覚障害者がメインキャストならでは「特殊な描き方」によって、より感動が増す。
しかし繰り返しますが「感動ポルノ」では決してないのです。
さらにさらに、ルビー役のエミリア・ジョーンズさんの歌声がめっちゃいいのだわ。これで歌唱力が中途半端なら説得力に欠けるけど、歌手でも全然イケるんじゃね?というぐらい上手。
障害、家族、恋愛、夢を叶える青春物語・・・振り返ってみると、すべてが無理なく詰め込まれているんですよ。
下ネタがところどころ含まれるので「PG-12」だけど、多くの世代に共感されるに違いない良作。
観た後は「人生ってめんどくさいこともあるけど、捨てたもんじゃねーな」と思えてくるでしょう。
親子でも楽しめる映画ですけど、性的表現には注意ですよ。