『PERFECT DAYS』は地味なルーティン生活がなぜか贅沢に思えてしまう魅力的な作品。

こんなに起承転結のない映画も珍しいが、見た後は不思議と心が浄化されたような映画でした。

・平凡な日常の中で起こる小さなドラマをこそ、深く味わっていく。

・「大きな夢を叶えましょう」「人と違うことをやれ」という命題を半ば条件付けられている私たちは、この映画を通じてその空気の圧迫から解放されるような気がするのではないか。

・質素な生活でも満たされている主人公を見ると、「過剰」にあふれている自分の心が整理されていく。それは図らずも主人公の仕事が「トイレ掃除」という点にも現れているかもしれない。

・なぜいい年をしてトイレ掃除の仕事をしているのか。その背景がほんのりしかわからない、家族関係で何かあったと思われるが、いちいち説明しない演出が良い。ささやかな充実した人生ではあるが、その底には悲しみが横たわっている。

・「木漏れ日」は同じように見えながら、その光のゆらぎに同じものはない。その「一回性」、二度と同じものはないのが「PERFECT DAYS」なのかもしれない。

・自分もかつてトイレ掃除を仕事にしていたことがある。銭湯にも一時期通っていたので、少しだけ親近感があった。この主人公のように、風呂なしアパートに住み、自分の青春時代の音楽を聞き、トイレ清掃員として黙々と働き、開店直後の銭湯で汗を流し、行きつけの飲み屋で一杯やり、古本の文庫本を読んで寝て、休日は写真。そんな人生も悪くない。