1960年後半の遠い北アイルランドの話だけど、自分自身の少年(少女)時代、家族や地元の人々との交流や過ごした自然などが思い出され、郷愁がジワジワこみ上げてくる地味な良作。
あまり予備知識なしで見たところ、冒頭のシーンからカトリックとプロテスタントによる激しい宗教対立が始まったので「なんで?」となる。
本作はケネス・ブラナー監督の少年時代が描かれており、主人公の少年の目線で描かれている。
その少年の目から見れば、「なんで同じキリスト教同士なのに、こんなに憎しみ合うの?」とたぶん明確に言葉にはなっていないだろうが、素朴な疑問を感じているのでしょう。
本作は「宗教戦争映画」とも捉えられるだろうし、「三丁目の夕日」のような古き良き時代の家族および地域社会を描いた映画とも捉えれるでしょう。
私は「宗教戦争映画」が7割、「家族・地域社会映画」が3割で捉えました。
後で歴史をちょっと学んでみたところ、どうやら日本人の感覚からはとうてい理解できないほど、カトリックとプロテスタントとの溝は深いようです。
映画を見ているときは「この人ら、なんでこんなバカみたいに争ってんの?」とツッコミを入れていましたけど、とかく「正義」はやっかいだ。
ただ、戦争を引き起こしているのは一部の過激派のプロテスタントであって、大半の地域住民はカトリックもプロテスタントもお互いの立場を尊重して暮らしてきたんですね。
それが「地域共同体の知恵」というもの。
戦争という分断とは対比的に地域共同体の結びつきが描かれており、それがどんどん失わている現在の世界に切なさを覚えてしまう。
勃発しかけている戦争にきな臭さはありつつも、一方でベルファストの素朴で温かい家族の中で、ときに映画や娯楽に興じる少年の姿がなんとも微笑ましい。
本作は白黒映画であることも、グッと郷愁感がアップしていますね。
以前『異端の鳥』という3時間弱の長編映画を見たことがありますが、これも白黒でした。
ただ、意外と記憶に焼き付いているんですよね。「白黒のマジック」と言うべきか。
個人的には少年の祖父の含蓄ある言葉がとても良かった。
ユーモアを交えながら、「人生は単純な算数では解き明かせない」ことを教えてくれる。
少年はおそらくその意味を完全に理解していないだろうが、それでいいのでしょう。
そうやって自分のことを見守ってくれる存在があるということが、少年の健全な成長を支えてくれるでしょうから。
あぁ、私もまたとても可愛がってくれた祖父のことを思い出しました。
少年時代、何を言われたのか細かいことは、もう覚えていない。
本を読み聞かせしてくれた記憶は、一切ない(写真は残っているけど)。
けれども、そうやって交流したかすかな記憶は、過ごした土地(本作ではベルファスト)に残っている。
人生はその土地、そこの人々と共にある。
「グローバル化」は地域共同体を解体させる方向に進んでいるけれど、その中で大切な何かを見失っている。
そんなことに気づかせてくれる良い映画でした。
※第94回アカデミー賞、第79回ゴールデングローブ賞(脚本賞)